『知の技法』

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知の制度の変革も、こうした世界史的な規模での変化の流れの一環であるーーーというより、実は、高度にテクノロジー化された知の在り方そのものが、こうした大きな変動の最大の要因かもしれないのですが、その意味で、大学という場の原理について考えることは、とりもなおさず、人間の文化の過去・現在・未来について考えることにもつながってくるのです。

 

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文化系の学問の多くは、かならずしも数式のような普遍的な言語による記述になじまない。(省略)しかし文化系学問の関心の中心は、対象の数量的な扱いにあるよりは、むしろ本質的に数量的な扱いに抵抗するようなものの記述にあると言っていいでしょう。すなわち、「もの」ではなくて、「ひと」です。人間の文化現象、社会現象です。まっさきに、量よりは質や意味が問題となり、数量という一元的な操作には還元できない多面的な、あるいは大義的な空間が浮かび上がってくるような対象です。歴史という意味の堆積の層を通してでなければ接近することができないような複雑な対象です。あるいは、反復操作による実験という自然科学の手法が不可能な対象、その意味で本質的に歴史的な対象です。